あすの「津波防災の日」「を前に一冊の本を読み直している。2011年3月の東日本大震災の3カ月前に出版された『津波災害-減災社会を築く』(河田恵昭著)だ。帯に「必ず、来る!」とあり、震災後に話題になった▼著者の河田さんは災害研究の第一人者。震災の半年後にこの本を読むまで、恥ずかしながら津波に対する認識が間違っていた。それまでは、江戸の浮世絵師・葛飾北斎の有名な版画「神奈川沖浪裏(なみうら)」のような大波を思い浮かべていたのだが、<津波は「高い波」というよりも「速い流れ」と考えた方が正しい>と▼例えば高さ4メートルの津波は「4メートルの水面の高さを持つ速い流れ」で、護岸や防波堤に衝突すると、進めなくなって盛り上がり、理論的には衝突前の1・5倍、高さ6メートル近くにもなるという。その際、防波堤や護岸には、高速で進む大量の海水が突然止められることで衝撃的な圧力がかかるそうだ▼ちなみに「津波防災の日」にまつわる安政南海地震(1854年)の逸話『稲むらの火』の原作者はラフカディオ・ハーン。ただ、その逸話で描かれている津波のように、いつも引き波で始まるわけではない、とのこと▼新型コロナウイルスへの備えと同じで、津波を「正しく恐れる」には、誤りのない予備知識を持っておくことが肝心。ハーンの思いを生かすためにも、筆者のような誤解がないか、点検してみてほしい。(己)