COP27で会期を延長した19日夜、急きょ記者会見した小島しょ国グループなどの関係者=エジプト・シャルムエルシェイク(ロイター=共同)
COP27で会期を延長した19日夜、急きょ記者会見した小島しょ国グループなどの関係者=エジプト・シャルムエルシェイク(ロイター=共同)

 エジプトでの国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)は、気候変動で発展途上国に生じた被害に対する支援基金を新たに設立することに合意して閉幕した。

 気候変動の影響を軽減する対策に取り組んでもなお生じる「損失と被害」への支援に特化した初の基金で、途上国にとっては大きな成果だ。

 だが、何よりも重要な温室効果ガスの排出削減対策に関しては前進がなく、このままでは気候変動の被害は大きくなる一方だ。日本を含めた先進国が気候変動を引き起こしてきた責任を自覚し、化石燃料依存から一刻も早く脱却しなければならない。

 気候変動がもたらす取り返しの付かない「損失と被害」を補償する仕組みが必要だとの声は1991年の同条約の交渉会議で、国土水没の危機に立つ小島しょ国が提起したのが最初だとされる。

 それから30年余。温室効果ガスの排出増加に歯止めがかからず、気候変動の影響は顕在化。防災対策や新品種の開発、かんがい施設の整備など、温暖化影響への「適応」の重要性が高まった。

 しかも、最近になって大規模な気候変動の被害が多発し、適応の限界が見えてきた。大洪水で国土の3分の1が水没したパキスタン、何年も続く干ばつで多くの人が命を落とすまでになったアフリカ諸国などの例がそれを明確に示している。

 当初は後ろ向きだった先進国が新基金設立への同意を迫られたのも、巨大な損失が生まれていることを否定できなくなったためだ。

 気候変動の原因である化石燃料依存から一刻も早く脱却しなければ適応の限界を超える損害はどんどん大きくなる。

 途上国の地球温暖化対策を支援する緑の気候基金や適応を支援する基金が既にある。官民の拠出金には限界があり、いくら基金をつくっても対策が追いつかなくなることは目に見えている。

 しかし、COP27では肝心の排出削減の取り組みに関する目立った合意は何一つなかった。日本を含めて自国の削減目標強化を打ち出した主要国はなかったし、化石燃料廃絶の道筋にも合意できなかった。この点で会議は失敗だ。

 中国やインドの対策強化が重要であることは言うまでもないが「われわれはやることはやった。後は新興国の対策強化だ」と言わんばかりの先進国の姿勢には大きな問題がある。

 先進国にはこれまでに大量の温室効果ガスを出してきた歴史的な責任があり、資金も技術も豊かだ。日本の1人当たり排出量はまだ、中国のそれよりも大きい。

 日本を含めた先進国が豊かになるために大量に出してきた温室効果ガスによる気候変動の影響で命を奪われるのは、ほとんど排出をしていない貧困国や島国の人々だ。

 ここに気候変動にまつわる巨大な不公正がある。新基金の設立は、この不公正を正そうという「気候正義」の考えに基づく。

 ただ先進7カ国(G7)の中でも、日本国内での気候正義の議論は低調だ。今回の合意を機に、気候正義の考えに基づき、これまでの排出削減対策や海外の化石燃料関連の援助を根本から見直すこと。それが今、日本に求められていることだ。