山陰中央新報1面の左下にあるコラム「明窓(めいそう)」。新聞社の論説委員と呼ばれる専門記者が交代で書いていますが、小中学生にはなじみが薄いのではないでしょうか。そこで、もっとコラムに親しんでもらおうと、「明窓」の見出しづくり教室を企画しました。第1弾として島根大付属義務教育学校前期課程(松江市大輪町)6年生の教室を訪ね、見出しづくりに挑戦してもらいました。 (論説委員長・松村健次)
政治・経済の動きや事件・事故、身近な出来事などを扱う一般記事は、「リード」と呼ばれる第1段落に事実関係を完結にまとめ、続いて詳細を説明していくのが書き方の流れです。
これに対し、筆者の意見や感想をもとに組み立てるコラムは何でもありのフリースタイル。だからこそ、読者に楽しんでもらうための工夫も欠かせません。
今回の教室で最初に紹介したのが5月1日付の「明窓」(例題(1))でした。読者の皆さんは分かったでしょうか? コラムの一番下の文字を右から左に読んでみてください。
「みなさんのおかげで140周年。これからも身近な存在に。未来をつくる140」
そう、文章になっているんです。「横読み」と呼ばれる技法です。
山陰中央新報は今年5月1日に創刊140周年を迎えるのに合わせ、よりよい未来をつくっていこうという願いを込めて、統一テーマ「未来をつくる140」を掲げました。当日のコラムで、創刊当時の様子を振り返るとともに、このテーマを紹介しました。
太字で書いていたこともあり、児童たちはすぐに気付いてくれました。これも自由度の高いコラムだからこそ、できることです。
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次に、山陰への新幹線誘致をテーマにした9月26日付の「明窓」(例題(2))を紹介し、実際に児童に見出しを付けてもらいました。
9月23日に開業した西九州新幹線「かもめ」に注目が集まっていた頃。山陰にも二つの新幹線建設計画がありながら、今まで実現していません。それが人口減少を招いたという側面もあると思います。
児童から出てきた見出しは「山陰新幹線ありかなしか」「山陰に新幹線を」など。的は射ていますが、読者が「へぇ~」「そうきたか」と思うような意外性も欲しいですね。
ご覧の通り、本紙の「明窓」に見出しは付いていません。ただし、デジタル版「Sデジ」では写真と見出しも付けています。
ちなみにこの際、私が付けた見出しは「『かもめ』が駆けた日」でした。ピンと来た人は50歳以上でしょう。元ネタは1978(昭和53)年に発表された渡辺真知子さんのヒット曲「かもめが翔(と)んだ日」。
児童たちは一応に「おぉ~」と関心してくれましたが、元ネタが分かっていたのは、後方で視察していた校長先生だけだったと思います。
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見出しを付けるには、文章をしっかり読み解き、筆者が何を伝えたいのかをくみ取ることが必要です。同時に読者の立場になって、どんなフレーズなら読みたくなるのかを考えることも大事なポイントです。
児童生徒に限りません。読者の皆さんも、頭の体操に「明窓」の見出しを考えてはいかがでしょう。
【読者の興味引くフレーズを】
今回の「明窓」見出しづくり教室では、児童の皆さんに宿題を出しました。寄せられた52人の作品を、新聞社で見出しを付けるプロである編成局整理部の安達弘伸担当部長が審査しました。優秀作5点を選ぶとともに、見出しづくりのヒントを紹介します。
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今回見出しを考えてもらったのは、島根スサノオマジックが開幕戦を迎える10月1日付の「明窓」で、NHKの朝ドラを絡め、新シーズンへ期待を込める内容でした。昨季はチャンピオンシップに進出し、日本一になれるのではと「夢」を見させてくれました。「明窓」を読んだ児童の皆さんも、今季のスサマジの活躍を信じ、わくわくしていると思います。
皆さんの見出しには、スサマジへの思いが表れていたと思います。チームの強さ、優勝への期待、応援する気持ちなど、選ぶのが難しくて悩みました。
ポイントとしたのは、新しく始まった朝ドラ「舞いあがれ!」の使い方。スサマジの新シーズンのスタートに、勝利して前へ進んで行くイメージが浮かんできます。ほかに「頂点」「日本一」といった言葉が入ると、「舞いあがれ!」に明確な目標が生まれ、見た人が分かりやすくなります。言葉のつながりやリズムの良さを感じられる点も、選んだ理由になりました。
「心がわくわく」するという意味を持つ「ちむどんどん」を使った見出しも興味をひき、面白いですね。
スポーツは筋書きのないドラマといわれます。それに二つの朝ドラ名をかけ、「見逃せないドラマ」と表現したのは秀逸でした。
また、スサマジのプレースタイル「バズソー」を使った作品も、視点が変わっていてユニークです。
見出しが面白いと、記事を読もうという気持ちになります。読者の立場になって、どんなフレーズなら文章を読みたいと思うかが、見出しを付けるヒントになるでしょう。
【「明窓」とは】
1面コラム「明窓」は、山陰中央新報の前身・島根新聞で1948(昭和23)年元日に連載がスタートし、論説委員が輪番で執筆するスタイルで、70年以上にわたって掲載しています。
タイトルは「明窓浄机(めいそうじょうき)」という中国・北宋の文人、欧陽脩の言葉が語源です。明るい窓と清潔な机を示した言葉で、転じて「学問や執筆に適した所」を意味しています。
現在、執筆を担当しているのは、専属のコラムニストのほか、取材を手配し記事をまとめる編集局のデスク、出先の記者など計12人の論説委員。立場は異なりますが、それぞれの記者経験を生かし、読者の皆さんの胸に響くコラムの執筆を心がけています。
末尾のかっこ内の1文字がペンネームです。どんな人物が書いているのかを想像しながら、568文字のコラムを読んでみてください。
【「明窓」を聞いてみよう】
耳から「明窓」を楽しみませんか-。普段は目で追う「明窓」を耳で聞くことによって、新たな気付きがあるかもしれません。
お題となった10月1日付の「明窓」を、島根大付属義務教育学校後期課程9年生の多久和沙良さんに音読してもらいました。
【プロが選んだ優秀作5点】
舞いあがれ!スサマジ 頂点へ (田城優帆さん)
スサマジに「ちむどんどん」! (髙橋青依さん)
ちむどんどん、日本一へ舞い上がれ (渡邉 仁君)
今始まった見逃せないドラマ (森田明武君)
バズソースタイル頂点へ走り抜け (安藤友那さん)
(※順不同、原文のまま)