東日本大震災から10年。作家の高村薫さんが被災地を歩きながら、感じたこと、考えたことをつづった。(タイトルの署名は本人)

■不都合な真実、他人事に

 2011年3月11日、福島、宮城、岩手を中心とした太平洋沿岸をマグニチュード9の巨大地震と大津波が呑み込んだあと、呆然(ぼうぜん)自失と大混乱が続くなかで私たちはさらに恐ろしい事態に直面したのだった。東京電力福島第1原発1~4号機の全電源喪失と、原子炉を冷却できず、空焚(からだ)きとなった末に起きた水素爆発である。

 ちなみに福島に限らず、原発で起きうる過酷事故については、常日頃から日本人の多くが無意識のうちに肌感覚でうっすらと想定していたのかもしれない。爆発が起きたとき、危機的状況を伝えるテレビ報道を観(み)ていた私たちは定点カメラが捉えた光景に思わず天を仰いだが、そのときの悄然(しょうぜん)とした心地は死の覚悟に近いものだったように思う。

終わりない作業

 幸い、放射性物質が被災地を覆い尽くすよ...