鳥取市の久松公園にある唱歌「ふるさと」の音楽碑。2014年にリニューアルされた
鳥取市の久松公園にある唱歌「ふるさと」の音楽碑。2014年にリニューアルされた

 卯(う)年が幕を開けた。動物に当てはめると「兎(うさぎ)」。そう聞くと、跳びはねる愛らしい姿とともに、あの唱歌の歌い出しを思い出す人も多いだろう。鳥取市出身の作曲家・岡野貞一(1878~1941年)による『ふるさと』である▼<兎追いし彼(か)の山 小鮒釣りし彼の川…>。幼い頃に「ウサギおいしい」と間違って覚え、「どんな味だろう。一度は食べてみたい」と思ったのは当方だけではないはずだ。そんな懐かしさと合わせ、ゆったりとしたメロディーが激しく郷愁を誘う▼だからだろう。東日本大震災の応援ソングとしてよく歌われる。福島第1原発事故で住み慣れた場所を追われた被災者にとって、震災前の生活や風景は全て「ふるさと」。今は荒れ果てたままだが、いつか必ず復興させようという励ましに聞こえる▼ところが、そんな被災者の思いを逆なでするかのように、政府はこれまでの方針を転換し、原発を積極的に活用する指針をまとめた。既存原発を使うのはまだしも、新規建設も進めるという。「核のごみ」の捨て場所もないのに。あまりに無責任だ▼唱歌の3番は<志を果たして いつの日にか帰らん…>で始まる。夢をかなえ故郷に錦を飾るとの意味だが、「島留学」で有名な島根県海士町では<志を果たしに…>と歌うらしい。都会で蓄えた力を地元で発揮してとの願い。追う兎はいなくても帰っておいで「ふるさと」へ。(健)