医師不足による診療体制の縮小がと明らかになった済生会江津総合病院=江津市江津町
医師不足による診療体制の縮小がと明らかになった済生会江津総合病院=江津市江津町

 「みんなが頼り過ぎたから、先生は疲れ果てちゃったんじゃないですか」。先生とは、吉岡秀隆さんが演じる離島の医師「コトー先生」。新作映画として16年ぶりに復活した『Dr.コトー診療所』の白熱した場面でその一言が胸に刺さった▼テレビドラマシリーズから見てきた、島民一人一人に寄り添いながら孤軍奮闘する姿がよみがえったからだけではない。身近なニュースを目にしたせいもあろう。江津市の中核病院である済生会江津総合病院で医師不足による診療体制の縮小が次々と明らかになった▼産婦人科はお産を中止し、外科と脳神経外科は常勤医がいなくなる。後任の医師は見つかっていないという。先生がいつか病院を離れるかもしれないと思いつつ、知らず知らずと頼り過ぎていたのだろうか。この先、残された医師に負荷がかかり過ぎて疲れ果ててしまわないだろうか。住民は不安を募らせる▼若い世代からすると、お産もできず、医療が満足に受けられない地域で子どもを産み育てたいとは思わないだろう。「異次元」とされる少子化対策で児童手当がいくら拡充されたとしても▼映画の中で、生きたいと願うコトー先生は絞り出すように語った。「患者の気持ちを分かった気でいたけれど、本当は何も分かっていなかったのかもしれない」。患者を国民や住民に置き換えるとどうだろう。為政者からは聞きたくない言葉である。(史)