満開になった法勝寺川土手の桜=2022年4月3日、鳥取県南部町法勝寺
満開になった法勝寺川土手の桜=2022年4月3日、鳥取県南部町法勝寺

 俳句で「花」といえば桜を意味する。美しさの中にはかなさを秘め、いつの時代も見る人の心を引き付けるからだろう。このところ暖かい日が続き、季節の移り変わりが一気に進んだ。開花予想によると、今年は例年になく早く咲き始めるそうだ▼桜をめでる花見が始まったのは約1200年前の平安時代。もともとは貴族の風習で、江戸時代になると身分に関係なく桜の木の下に集まって春の訪れを楽しむようになった▼「土手の花見」という文化が生まれたのはこの頃。幕府は川の堤防を造ると、決まって桜の苗木を植えた。桜が育つと花見に訪れた住民が土手を歩くようになり、自然と梅雨前に堤防が踏み固められるからだ。多くの桜並木は水害から命を守ろうとする先人の知恵で築かれた▼日本人にとって桜は出会いと別れの季節に欠かせないものだ。別れの卒業式は花が散り、新たな出会いを迎える入学式は満開というイメージがまかり通るのも、特別な感情がそうさせるのだろう▼<さまざまのこと思ひ出す桜かな>と詠んだのは芭蕉。山陰両県ではきょう、公立高校の一般入試が行われる。受験生は中学入学以来、コロナ禍に振り回され多くの我慢を強いられてきた。だが、辛抱するのもあと少し。耐えながら歩んできた3年間は、この先の苦難を乗り越える力となる。桜は厳しい冬の寒さがあってこそ、きれいな花を咲かせる。春は近い。(文)