キララ多伎から臨む海と夕日=出雲市多伎町多岐
キララ多伎から臨む海と夕日=出雲市多伎町多岐
キララ多伎から臨む海と夕日=出雲市多伎町多岐

 海水浴もマリンスポーツも楽しめるエメラルドの海。水平線に沈む夕日も美しい。日本海に面する出雲市西部の多伎、湖陵両町にまたがるエリアで、5月1日オープンを目指し複合型リゾートをつくるプロジェクトが進む。

 「県内一のリゾート地にしたい」。一帯で宿泊施設やカフェ、ハンバーガーショップなどの立ち寄りスポットを整備する開発4社の一つ、島根銀行の森脇誠出雲支店長(50)が意気込む。

 ツインルーム8室の宿泊施設は、露天ジェットバス付きで海側へ突き出すような円筒形テラスが部屋ごとにあり、オーシャンビューのレストランで提供されるこだわりの地元食材を使ったメニューとともに味わう「非日常」が最大の売りだ。

 新型コロナウイルス禍の猛威もヤマを越えて観光マインドがあふれ出ようかという絶好機。期待はいやが上にも膨らむ。

▼集客落ち込む

 振り返れば、2005年3月の「平成の大合併」に向け、合併協議で描かれた新市の「未来」も華やかだった。

 旧多伎町エリアは「西の玄関口」として、旧大社町エリアの出雲大社を核とした観光ネットワークを形成し、「観光・交流の拠点」となるはずだった。

 下地もあった。日本海と面する国道9号沿いの道の駅キララ多伎は「日本の夕陽百選」にも選ばれた夕日スポットで、島根県観光動態調査によると、合併前の04年、年間42万人の入り込み客があった。

 合併後も、06年に道の駅を運営する第三セクターが近隣に海洋療法施設をオープンさせるなどして集客力を高め、07年の入り込み客は60万人に上った。

 しかし、その後は下降線をたどり、コロナ禍前の19年にはほぼ合併前の水準の44万人に。一方、出雲大社は同年も、合併前の3倍超の634万人。本殿遷座祭があった13年の804万人からは減ったものの、その推移は「周辺部」の落ち込みとは異なる曲線を描き、ネットワークが未形成であることを如実に示した。

▼体験型が重要

 「自治体間のさまざまな格差是正のために福祉や医療の議論が多く、観光について十分に手が回らなかった」。20年近く前のことになった合併協議に町議会代表として加わった、多伎地域自治協会連合会の坂根守会長(74)が、議論の過程をこう振り返る。新たな「拠点」をどうつくるのか、道筋が見えなかった。

 新しい「人の流れ」をつくるという、ネットワーク形成の目的は変わらない。出雲大社の多くの参拝者が松江市の玉造温泉や松江しんじ湖温泉に向かう、合併前から指摘されてきた課題の解消へ、出雲観光協会の田辺達也会長(65)は「出雲の滞在時間を増やすためには自然を生かした体験型の観光を用意することが重要」と話す。

 「コロナ後」をにらみ、旧湖陵町エリアの神西湖畔や旧大社町エリアの日御碕灯台近くにはグランピング施設が相次いで誕生。24年度には山陰道の出雲インターチェンジ(IC)―出雲多伎IC間が開通予定で、海沿いのルートで多伎と湖陵、大社をつなぐ「くにびき海岸道路」との接続により、周遊の利便性は大きく高まる。

 この海岸道路沿いのエリアで進む、期待の複合型リゾートのプロジェクト。追い風を背にし、島根銀の森脇支店長は「流れを持ってきたい」と力を込める。

 (黒沢悠太)

    ◇  ◇  ◇

 旧2市5町の合併で「人口17万都市」となった出雲市。合併後「中心部」で人口が増える一方、人口減少が進む「周辺部」も自然や文化、人と人とのつながりなどの地域資源を生かし、活力を生み出そうとしている。点から線、面へと広げ、より豊かな地域をつくろうとする動きを追う。