アルバム「ドゥー・バップ」
アルバム「ドゥー・バップ」

 ジャズトランペット奏者マイルス・デイビスの曲で一番好きなのは「ドゥー・バップ・ソング」。ヒップホップを取り込んだ異色作で、遺作でもあるアルバム「ドゥー・バップ」(1992年)に入っており、とにかくかっこいい。クールな演奏が引き立っている。ジャズファンに限らず広く音楽ファンに薦めたい。

 延々と繰り返されるシンセサイザーのメロディーはヒップホップデュオ、ギャングスターの「DJプレミア・イン・ディープ・コンセントレーション」のサンプリング。この繰り返しが心地よく、マイルスを引き立てる。ラップや口笛もいいアクセント。「マーーーマイルス・デイビス」というコーラスもいい。

 ジャズの定番曲の演奏では「エアジン」がお気に入り。サックス奏者ソニー・ロリンズが作った曲で、ロリンズとの共演がアルバム「バグス・グルーブ」(1957年)にあるが、アルバム「クッキン」(同年)収録の演奏の方がアップテンポで緊迫感がある(サックスはジョン・コルトレーン)。ここでマイルスは熱く、激しい。あおるようなピアノとドラムもいい。作曲者との共演より、そうでない演奏の方が盛り上がっているのは、なぜだろう。

アルバム「クッキン」

 マイルスは、モダン・ジャズの新しいスタイルを創出し、ロックの要素を取り込んだ「フュージョン」というジャンルも開拓し、さらにはファンク、ポップスなどさまざまな音楽を取り込んだ革新的な巨人だ。

 当方は、最高傑作とされるアルバム「カインド・オブ・ブルー」(1959年)、フュージョンを確立した名盤とされる「ビッチェズ・ブリュー」(70年、2枚組)は好きにならなかった。大学時代、ジャズファンの友人に指示されるまま、この2作品からマイルスに入ったが結局、2作品はリサイクルショップに持っていった。

 「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」(56年)も「ウォーキン」(57年)も「マイルストーンズ」(58年)もいいと思うが「カインド|」「ビッチェズ|」はそう思えない。

 それよりかは、シンディ・ローパーの名曲「タイム・アフター・タイム」のカバーの方がいいと思ってしまう(85年のアルバム「ユア・アンダー・アレスト」に収録。肝心のサビを吹いておらず、妙な余韻を生んでいるのが面白い)。

 記者はたぶん異端だ。ただ、いろんな楽しみ方ができるのも、マイルスの懐の深さの表れだと思う。
  (志)