東京五輪の開会式で、旗手の八村塁(手前右)と須崎優衣(同左)を先頭に入場行進する日本選手団。緊急事態宣言下、無観客で行われた=2021年7月23日、国立競技場
東京五輪の開会式で、旗手の八村塁(手前右)と須崎優衣(同左)を先頭に入場行進する日本選手団。緊急事態宣言下、無観客で行われた=2021年7月23日、国立競技場

 磯で釣りざおを出すと、忘れた頃に大物が掛かる。グオッという手応えに胸が躍り、バチッという音で糸を切られる。へなへな腰が砕け、それから仕掛けの手抜きをうじうじ悔やむ▼550年の歴史を誇る華道池坊に、山水を表す「立花(りっか)」という古い様式がある。針金で花をねじ曲げ、かわいそうだと嫌う人もいる。先生いわく「丁寧に仕事をすれば花を守れる」。先生の花々は、いずれも正確にきちっと針金が巻かれているがゆえ元気そうだった。あんなふうに緻密に仕掛けを作れば、針に掛かった大物のいくつかを魚拓にできただろう▼「蟻(あり)の穴から堤も崩れる」という。細部で油断すると大事を招くという意味だ。新型コロナウイルス禍も3年以上がたち、ようやく以前の暮らしを取り戻しつつある。ただ、期間中は「らしくないこと」が多かった▼日本人が得意な細やかなおもてなしを披露できそうだった東京五輪は、終わってみれば汚職まみれの大会に。技術立国をうたいながら科学分野で他国の後塵(こうじん)を拝し、治安が良いと思っていたら新旧の首相の命が狙われる▼いずれも細部に誤りや粗雑な一面がなかったか。例えば科学技術は損得勘定に追われて、当面役立ちそうにない研究を軽んじる風潮があったのと無縁ではあるまい。町で外国人を見かける機会も増え高揚感がある今だからこそ、各方面で〝再出発前〟の細部点検に意味がありそうだ。(板)