町歩きが好きだ。旅に出ると、小さな路地や横町に吸い込まれる。その地の生活を想像しながらぶらぶらと散歩し、古い建物や乾物、種苗など昔ながらの小さな専門店を見つけると、歩を止める。

 全国展開の複合商業施設が勢いづく現代で、地元の小さな店が残っているのは、支える買い手がいるからだ。その持ちつ持たれつのつながりを勝手に想像し、「いい町だ」と心を温める。

 小さな店に引かれるのは、生家が商いをしていた影響もあるだろう。門前町の土産店だったが、商売はいつも上向きとはいかず、特に1990年代のバブル崩壊のあおりを受け、人の出足が鈍った一時期は、町全体が重苦しく静まった。結局、誰も後を継がなかった生家の店は、20年前に両親が閉じた。

 今春、8年ぶりに松江市殿町の本社の外勤業務となり、...