ミステリー作品には「倒叙もの」というのがある。聞き慣れない言葉だが、最初から犯人が分かるようになっていて、刑事が徐々に追い詰めていき、トリックが暴かれる。犯人の心理描写と追及する刑事との駆け引きが売りだ。テレビドラマでは、米国で制作され日本でも放映された『刑事コロンボ』や田村正和さん主演の『警部補・古畑任三郎』などがよく知られる▼その田村さんが先月、心不全のため77歳で亡くなった。甘さに陰影が差すマスクと豊かな長髪。ニヒルな二枚目として人気を集めたが、古畑任三郎を演じる田村さんは、ニヒルさとコミカルさが入り交じって独特のキャラクターを醸し出した▼「阪妻」と呼ばれた往年の大スター、阪東妻三郎の三男。兄の高広さん(故人)、弟の亮さんとともに「田村3兄弟」として個性を競い合った。父親と瓜(うり)二つの顔立ちの高広さんや面影を偲(しの)ばせる亮さんと比べると、風貌もさることながら、豪放な阪妻のイメージとは遠かった▼正統派の二枚目が三枚目を演じると、わざとらしく嫌みだが、この人の場合は飄々(ひょうひょう)としてそんな嫌らしさを「毒消し」する雰囲気をたたえていた▼ニューヨークのクラブで刑事コロンボ役の故ピーター・フォークさんと偶然、隣り合わせになったのも何かの縁。よれよれのレインコート姿のコロンボと黒ずくめの古畑任三郎が、天国で犯人を追い詰めていることだろう。(前)