北朝鮮が軍事偵察衛星のロケットを打ち上げたと発表した。発射後に「事故」が発生して失敗したと認めたが、可能な限り早期に再打ち上げを断行するとしている。北朝鮮は過去5回、「衛星打ち上げ」と称する発射を行ってきたが、軍事目的であることを明確にしたのは今回が初めてだ。脅威のレベルは確実に上がっており、北朝鮮への歯止めを模索することが国際社会の急務となる。
これまでの「衛星打ち上げ」には、弾道ミサイル技術を高めたいという北朝鮮の目的が透けて見えた。だが、近年は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行うまでに至っている。ICBMを配備する技術力を確保した上で軍事偵察衛星利用の能力を誇示しようとした今回の打ち上げは、北朝鮮の核ミサイル開発が確実に進んでいることを示している。
北朝鮮は2021年1月、朝鮮労働党の党大会で「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」を採択し、核ミサイル開発の大号令をかけていた。そこには「軍事偵察衛星」による「偵察情報収集能力の確保」も記されており、五大重点目標の一つとされた。同国メディアは今年4月、1号機が完成したと報じ、打ち上げに向けた準備は着々と進んでいた。
軍事偵察衛星の開発について、北朝鮮は「国を守るためのわれわれの主権と正当防衛権」と主張している。その背景には、対北朝鮮で連携を深めている日米韓の存在があることは明らかだ。
特に4月の米韓首脳会談で合意した共同文書「ワシントン宣言」では、米国が核兵器と通常戦力で韓国防衛に関与する抑止力の強化が盛り込まれた。両国の核戦略計画に関する協議グループの創設や、弾道ミサイルの搭載が可能な戦略原子力潜水艦の韓国派遣といった内容が、北朝鮮を大いに刺激したことは想像に難くない。
衛星が米軍の動きなどを捉え、画像データを地上に送ることができれば、ミサイル技術を高める北朝鮮にとっては目標を正確に攻撃することが可能となる。撮影や地上への送信などで、北朝鮮がどれほどの技術を有しているかは不明だが、日米韓にとっては安全保障上の脅威だ。
今回、北朝鮮は打ち上げを事前通告し、手続き上も問題がないことを強調している。だが、打ち上げ自体が、北朝鮮の「あらゆる弾道ミサイル技術を使用した発射」を禁ずる国連安全保障理事会決議に違反している。国際社会の取り決めに反した蛮行であることに、疑いの余地はない。
それでも北朝鮮が打ち上げを強行するのは、ロシアによるウクライナ侵攻などを巡り、安保理が機能不全に陥っているからでもある。「米国」と「中国、ロシア」の対立が固定化する中で、北朝鮮が軍事偵察衛星を打ち上げても、中ロは安保理の対北朝鮮制裁決議に拒否権を行使する。北朝鮮にとって、国際社会の圧力というハードルは低くなっているのだ。
北朝鮮に軍事的圧力をかけるだけでは、事態の変化を望むのは難しい。地域の安定につなげるためにも、日米韓が連携して北朝鮮との対話を模索する取り組みも重要になってくる。岸田文雄首相は、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記と条件を付けず対話に臨むとしており、その実行力が求められている。