生家の梅の木。今年もたくさんの実をつけた=5月28日
生家の梅の木。今年もたくさんの実をつけた=5月28日

 祖母は四十数年前、孫娘が生まれた記念にと庭に桃の木を植えた。やがて小さな花と実をつけたが、様子がおかしい。購入先の庭木屋が間違えたのか、桃だと思って植えた木は、梅だった。語り草としても楽しませてくれたその木は、孫娘であるわが身の代わりになってくれたかのように、嫁いだ年に病気で枯れた▼近くに植えた2代目の木は、今年もたくさんの実をつけた。父が幼い頃にはあったというもう一本の老木とともに、実はすべてウオッカに漬け込む。生家の木で作る梅酒は格別においしく、毎年いそいそと取り組む梅仕事だ▼きょう6月6日は「梅の日」。干ばつによるききんに悩まされた室町時代の天文14年4月17日(新暦1545年6月6日)、京都の賀茂神社の例祭で後奈良天皇が梅を献上すると、恵みの雨が降り、五穀豊穣(ほうじょう)をもたらしたという故事にちなみ、和歌山県田辺市の紀州田辺うめ振興協議会が制定した▼後奈良天皇は悪疫流行の終息を祈り、般若心経を書写して諸国の社寺に奉納したことで知られる。流行に対する自省の念を述べた言葉も添えたというから、祈りが通じた梅の力に天皇自身も救われただろう▼1500年前に中国から伝わったとされる梅の木は、日本の四季と土質によって酸味の強い実をつけるものに生まれ変わったという。抗菌、抗酸化作用はそのたまもの。津々浦々で実る梅を大事にいただきたい。(衣)