花を手に性暴力撲滅を訴える「フラワーデモ」の参加者ら=2022年11月、広島市
花を手に性暴力撲滅を訴える「フラワーデモ」の参加者ら=2022年11月、広島市

 強制性交罪と準強制性交罪を統合して「不同意性交罪」に改め、被害実態を踏まえ新たな処罰要件を設けるなど、性犯罪規定を大幅に見直した改正刑法が施行された。強制性交罪は被害者の抵抗を著しく困難にする「暴行・脅迫」があった場合に適用され、長年にわたり捜査や裁判では、被害者がいかに強く抵抗したかが重視されてきた。

 しかし被害者や支援団体は「暴行・脅迫がなくても、恐怖で体を動かせなかったり、声を出せなかったりする」「長年の虐待で抵抗する意思を持てないこともある」などとして、実態に即していないと批判。同意がないことのみを要件として罰する欧州型の法制を導入すべきだと訴え続けた。

 強制・準強制わいせつ罪も「不同意わいせつ罪」に統合した改正法は、性的行為に同意しない意思を形成、表明、全うするのを困難にさせることが要件と規定。同意の有無を見極めるための行為・状態として、暴行・脅迫に加え「アルコールや薬物の摂取」や「恐怖・驚愕(きょうがく)」「虐待」「地位利用」といった8項目を具体的に例示している。

 被害者の声をくみ、同意のない性行為は罰すると明示した意義は大きい。性犯罪を巡る社会の捉え方にも影響しよう。だが、やはり改正法に盛り込まれた公訴時効の延長なども含め、課題は残っている。性被害根絶に向け、運用の検証と見直しを怠ってはならない。

 改正のきっかけとなったのは、2019年3月に性犯罪を巡り各地で相次いだ無罪判決。実の娘に対する準強制性交罪に問われた父親が名古屋地裁岡崎支部で無罪となり、「娘が抵抗不能の状態だったとは言えない」との判決理由に「性的虐待への理解が足りない」などと批判が噴出した。

 酔いつぶれた女性への準強姦(ごうかん)罪で「抵抗できない状態につけ込んではいない」と加害者を無罪にしたケースもあった。準強姦は準強制性交に改正される前の罪名。一連の判決に抗議し、性暴力撲滅を訴える「フラワーデモ」が全国に広がり、被害者らは欧州型の不同意性交罪導入を求めた。スウェーデンは18年5月に「任意に関与していない者との性交を処罰する」という規定を設けている。

 ただ法相の諮問機関・法制審議会の部会で「内心だけを問う不明確な要件だと、処罰範囲が過度に広がる」などと慎重意見が相次ぎ、8項目の例示に至った。被害の広がりに後れを取った感はあるが、性的な自由の侵害という性犯罪の本質に焦点を当てたことは評価できよう。だが8項目の中で「同意しない意思を表明するいとまがない」などについては「どのような状況か分かりにくい」と指摘され、8項目に「類する行為」も処罰されるため、犯罪となる行為が曖昧との懸念も出ている。

 加えて、内閣府の調査で「被害を誰かに打ち明けるまでの期間」は「5年未満」との回答が9割を占め、公訴時効を5年延長したが、さらに延長を求める声は根強い。幼少期の性的虐待を被害と認識するまで長期間を要する例が多いからだ。

 子どもの性被害が後を絶たないため、わいせつ目的で16歳未満に金銭提供の約束などで手なずける「面会要求罪」も新設した。的確な処罰はもちろん、相手が本心では拒んでいないという考え方をなくす教育や啓発にも力を注ぐ必要がある。