防衛装備品の海外輸出を巡り、自民、公明両党は輸出ルールに関する「論点整理」をまとめた。慎重論を併記しているものの、ルールを見直し、分野を限定すれば、殺傷能力のある武器の輸出も容認する内容だ。
両党は秋以降に議論を再開し、政府に提言する。一方、政府側も与党論議と並行して武器輸出拡大の検討を本格化させる方針だ。
かつて「武器輸出三原則」として武器の全面的な禁輸を基本方針とした日本だが、安倍政権時代の2014年に閣議決定した「防衛装備移転三原則」で、海外輸出を促進する方向へ転換した。ただ、その運用指針でも殺傷能力のある武器は輸出できないと解釈してきた。今回の論点整理はその根本原則を変えるものだ。
移転三原則も「平和国家としての歩みを堅持」すると明記している。日本の海外支援の主軸は民生部門や人道面だったのではないか。ロシアのウクライナ侵攻などにより国際情勢は流動化している。求められるのは国際秩序を再構築する取り組みである。武器輸出の促進がそれに貢献するのか。国家の針路に関わる課題であり、政府、与党だけで決めるのではなく、国会で徹底した議論を行うべきだ。
与党の論点整理は、現行ルールでは安全保障面で協力関係のある国に対して防衛装備品の輸出を認めている「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の非戦闘の5類型に関して検討。掃海で機雷を処理する機関砲や警戒・監視で立ち入り検査を行うための銃器を例示し、殺傷能力のある武器を搭載した装備の輸出も容認する意見で一致したと明記。英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機を念頭に「第三国への輸出を認める意見」が大勢を占めた、としている。その一方で「国民が納得できる説明が必要との意見があった」とも併記した。
政府は先の通常国会で、防衛産業を支援するための生産基盤強化法を成立させた。輸出の拡大には企業支援の狙いもあろう。武器輸出は相手国との関係をより強めることになる。「味方」を増やすのは安保政策上の重要な戦略だ。しかし、輸出した武器が紛争に転用され、市民を殺傷する事態に至る懸念は拭えない。「平和国家」の本質が問われる課題だ。
議論の過程も不透明だった。岸田政権は昨年12月に改定した「国家安全保障戦略」で、日本にとって「望ましい安保環境の創出」などを理由に、移転三原則や運用指針の見直しを打ち出した。
ただ、今年4月の衆院委員会で防衛装備庁長官は「5類型で直接、人を殺傷することを目的とする装備の移転は想定されていない」と答弁している。
ところが、その直後に始まった与党協議で政府側は、移転三原則策定の段階で、殺傷能力のある武器も輸出対象として議論していたと説明。運用ルールに明文の禁止規定がないことを理由に、輸出は可能だとの解釈を示した。
非公開で行われた与党協議の場で、解釈を事実上変更し、武器輸出を拡大していくという、なし崩しの手法と言わざるを得ない。
分断が進む国際社会で、一方の側にくみするのか。秩序再構築に向けた対話の仲介役の役割を担うのか。武器輸出問題にとどまらず、日本の将来像を描く、厳格な議論を求めたい。