松江市学園南1丁目の旧島根県立プール跡地で開催中のポップサーカス松江公演(山陰中央新報社、TSKさんいん中央テレビ主催)で、4月に入社した本紙記者(23)が空中ブランコに挑戦した。かつて読んだ小説の世界に憧れて立った地上15メートルのステージ。味わったのは恐怖か、それとも感動か。挑戦をリポートする。 (政経部・堀尾珠里花)
「まるで、とりみたいじゃないか」。別役実氏の小説「空中ブランコのりのキキ」で、宙を舞う主人公に向けられた言葉だ。国語の教科書をすり減らすほど読み返し情景を夢想した。挑戦の打診を受けた時、真っ先にこの場面を思い出し、思わず手を挙げてしまった。
本番は今月1日。公演が終わり、まだ熱気の残るテント内には、ビル5階の高さに相当する空中ブランコのステージが残されていた。スタッフに促され、縄ばしごに手をかける。最初は高揚感が大きかったが、中間点まで登り足がすくんでしまった。記者は実のところ高所恐怖症。「手を離し降りようか」と思ったが、命綱はついていない。上で待機する演者になんとか引っ張ってもらい、スタート地点に立った。
緊張と恐怖で玉のような脂汗が吹き出す。顔が引きつっているのが自分でも分かる。地上で見守る団員たちの「頑張れ」のかけ声で見下ろすと、人が小さく見え、さらに恐怖心が湧いた。体を支える団員の「最初はみんな怖いけど、すぐに楽しくなるよ」という励ましで、バーに手を伸ばした。
後は、自分の意志で足場から足を離すだけ。しかし、片手でバーをつかみ片足をあげることはできたものの、両足とはいかない。ついに、緊張で硬まった体を団員に持ち上げられてしまった。「本当に飛ぶのか」と考えた次の瞬間、「せーの!」のかけ声とともに投げ出された。
「ぎゃーっ」人生で二度とない断末魔のような叫びで飛び出し、ぎゅっと目をつぶった。1往復目は恐怖のあまり何も考えられなかったが、2往復目でやっと目を開いた。重力を感じさせず体が弧を描き、遠く視界の端に観客席が並ぶ。まさに鳥になった気分だった。「歓声に包まれて舞う団員はもっと気持ちがいいんだろうな」
「鳥」になれたのもつかの間、最後に大仕事が残っていた。地上に戻るには、ネットに飛び降りなければならない。合図の「HOP!」のかけ声が聞こえたものの、恐怖で手を離せず、2回目で再び「ぎゃーっ」とテント中に響く悲鳴とともに落ちていった。
地上に降りてからは、達成感で興奮が抑えられず団員に「とにかく楽しかった、ありがとう」と伝え回った。ふと、舞台にできた小さなきずが目に入った。華やかな舞台の裏には、演者たちが積み重ねた無数の失敗や努力がある。団員たちの見る世界を少しでも感じることができ、忘れられない思い出になった。
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公演は、9月18日まで(毎週木曜と、8月30日、9月6日は休演)。前売り入場券は大人3千円、子ども(3歳~高校生)2千円。当日券は各500円増し。問い合わせは松江公演事務局、電話0852(67)7960。