<長島はとても美しいところです。前方に小豆島が見え、四季それぞれにいろんな野の花が咲きます。私は長島が大好きでして、そこで人間として生きることができたことを本当にうれしく思っております>▼瀬戸内海に浮かぶ長島にある国立ハンセン病療養所で暮らす、宮﨑かづゑさん(95)の著書『長い道』にある。10歳で入所。縦社会だった少年舎では人間関係に苦しみ、逃避のため読書に没頭した。後遺症により19歳で右足を切断。「心が氷のように冷たい女になっていた」が、22歳で夫と出会い氷は徐々に溶ける▼所内で働く夫を支える日々。習得したミシンで、下着や布団まで手製し、畑の野菜や釣った魚で料理した。その結果、手指も失ったが「私なりにきちっと生きた。後悔はない」。夕焼けの空、丘に小さな花を見つければ、夫が誘ってくれた▼旅行や岡山市内のデパートにもよく出かけ、「私は自由そのもの」と言い切る。50歳を過ぎてうつ状態にも陥ったが、心を通わす療友や医療スタッフ、年に数回面会に来た母親をはじめ、確かな愛情が宮﨑さんを支えたことは、もう一つの手記『私は一本の木』からもうかがえる▼今月、長島を訪れる機会を得た。眼前に静かな海が広がっていた。宮﨑さんの筆舌に尽くし難い辛苦や喜びは、長島の自然とともに昇華し続けているのだろう。誤った政策に臆せず生きた人がいることも心に留めたい。(衣)