処理水の海洋放出設備の説明を受ける岸田首相(中央)=20日午後、東京電力福島第1原発(代表撮影)
処理水の海洋放出設備の説明を受ける岸田首相(中央)=20日午後、東京電力福島第1原発(代表撮影)

 「民意」という言葉は死語になってしまうのか。中国電力が山口県上関町に建設を計画する原発の使用済み核燃料の中間貯蔵施設を巡り、同町の西哲夫町長が建設に向けた調査を容認すると表明した▼町財政の逼迫(ひっぱく)を受け、国の交付金を受けるため、背に腹は代えられないという事情は理解できる。ただ町議10人の意見を聞いたのみで議会の採決もなく、中電の提案からわずか16日で容認を決定。町による住民説明会さえなかった。これでは反対派でなくとも首をかしげてしまう▼原発に関する判断に民意はもう不要なのだろうか。そう疑念を抱かせたのが岸田文雄首相。1年前、将来的な電力の安定供給を理由に、原発の新増設と既存原発の運転期間延長を検討すると打ち出した。前月の参院選で全くそぶりも見せず、国民に対するだまし討ちのようだった▼今回はさすがに段階を踏まざるを得なかったのだろう。1泊3日の訪米直後にもかかわらず、処理水の海洋放出で最終調整に入った東京電力福島第1原発を視察。きのうは海洋放出に反対する全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長と面会し理解を求めたが、翻意に至らなかった▼それでも岸田首相はきょう、関係閣僚会議を開き、放出の開始時期を決める意向のようだ。得意の「先送りできない課題」というフレーズを繰り返し、強引に物事を進めていては、民意からそっぽを向かれることになる。(健)