■避難完了まで27時間超必要
 原子力防災対策の旧指針は防災対策の重点区域の目安を原発の10キロ圏にしていたが、福島第1原発事故を受けて30キロ圏に拡大された。島根原発の30キロ圏内には立地自治体の松江市のほか、出雲、安来、雲南、米子、境港の5市が含まれ、約46万人が暮らす。

 島根原発が事故を起こした場合、米子、境港両市の住民は鳥取県東部へ向かい、松江、出雲、安来、雲南4市の住民の多くは県境を越えて広島、岡山両県に避難する必要がある。島根、鳥取両県は2014年、標準的な想定で30キロ圏内の住民(当時は約47万人)の避難が完了するまでの所要時間を27時間50分と推計した。

 (地図は居住地と避難先を色別で示した)

 

 全国20原発のうち、避難の備えが必要な30キロ圏内の人口規模は日本原子力発電東海第2原発(茨城県)の約94万人が最多。中部電力浜岡原発(静岡県)の約83万人、島根原発の約46万人と続く。入院患者や寝たきりの高齢者など自主避難が難しい「要支援者」の数では島根原発が全国最多となる。

 原子力委員会が1964年に制定した「原子炉立地審査指針」は、原発を建設する前提として周辺は「非居住区域」、その外側は「低密度人口区域」であることを求めたが、原発からどれくらい離れた所までが「非居住区域」「低密度人口区域」であるかは定義されておらず、その後に周辺人口が増えても放置され、形骸化している。

 

■福島第1原発事故 帰還困難区域は宍道湖4.3個分

 福島第1原発は東日本を襲ったマグニチュード(M)9.0の地震と津波で全ての電源を喪失し、原子炉の核燃料を冷やすすべをなくした。1~3号機で冷却できなくなった核燃料が溶け落ちる炉心溶融(メルトダウン)が発生。1、3、4号機の建屋が水素爆発で壊れ、大量の放射性物質が大気中に放出されて周辺地域を広く汚染し、最大で約16万人の住民が避難を余儀なくされた。

 事故の時に風下だった原発の北西方向に放射線量の高い場所が広がり、今も宍道湖の4.3個分に相当する面積(337平方キロ)が、住民が自分の家に戻れない「帰還困難区域」となっている。

 

■地震津波対策 稼働には地元同意

 2011年3月に発生した東京電力福島第1原発事故を受け、原発の規制は大幅に引き上げられた。原子力の「推進」と「規制」を分離するため、12年9月に原子力規制委員会が発足。13年7月施行の新規制基準は炉心溶融などの過酷事故対策を義務付け、地震や津波の想定を強化した。島根原発の構内には緊急時対策所やガスタービン発電機、フィルター付きベントなどが新たに設置された。

 中電が島根2号機を再稼働させるには、規制委の新規制基準適合性審査に合格後、安全協定に基づいて立地自治体の松江市と島根県の「事前了解」(地元同意)を得る必要がある。

 一方、島根原発の30キロ圏内にある周辺自治体の出雲、安来、雲南、米子、境港の5市と鳥取県も中電と安全協定を結んでいるが、再稼働の可否を判断する事前了解の権限は与えられていない。しかし、福島第1原発事故で被害が広範囲に及んだことを受けて、周辺自治体には立地自治体と同様に原子力災害に備えた避難計画の策定が義務付けられた。このため、自治体間の「格差」の是正を求める声が高まっている。

 

▼島根原発 国産1号の1号機(廃炉)と、規制委が審査中の2号機、審査が中断している3号機(建設中)がある。構内では中電と協力会社の社員が2952人(2020年12月25日現在)働いている。2号機は事故を起こした福島第1原発と同じ沸騰水型(BWR)で、審査に合格すれば10原発17基目となる。3号機は2号機の合格後に審査が本格化する見込み。

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