伝統的工芸品に指定されている「雲州そろばん」
伝統的工芸品に指定されている「雲州そろばん」

 全国各地に伝わる工芸品は職人の熟練の技によって生まれ、個性が地域の特色となって受け継がれる。取材で山陰両県のものづくりの現場を訪ねた際、作品の美しさや職人の真摯(しんし)な姿勢に心動かされることが多かった▼道具としての機能、暮らしの中から生まれた知恵が込められた品々だ。経済産業大臣が指定した「伝統的工芸品」は全国で現在240品目。山陰では、出雲石燈ろう、雲州そろばん、石州和紙、石見焼、因州和紙、弓浜絣(がすり)が指定されている。地域の素材を生かし、工夫を重ねながら今に伝えられた▼伝統的工芸品の製造に携わる技術者の中でも、より高度な技術や技法を有するのが「伝統工芸士」。2022年2月時点、全国で3544人が認定されている▼ただ、現行の認定ルールとなった1993年以降で最多だった4671人(2007年)と比べれば、1100人余り減少。後継者育成が大きな課題として横たわる。一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会は、新規従事者などへの指導に関し、資金的支援も続ける▼明るい兆しはある。減少する伝統工芸士にあって、女性は616人で全体に占める割合が17・4%と上昇傾向。伝統工芸士を志す若い世代も増えているという。生活の変化や高齢化に伴い、わら細工や竹細工ができる一般の人は少なくなった。日本が誇る匠(たくみ)の技は、将来にわたる貴重な財産。その大切さを再認識したい。(彦)