台所と民主主義はつながっている、と元NHKアナウンサーの山根基世さん(75)はいう▼声で伝えるジャーナリストを自認し、子どもたちの言葉の力を育てる活動も続ける。40代半ば、働く女性をテーマにした番組作りにやりがいを感じ、連日深夜まで働いた。自分自身の生活がなくなっていくと同時に、番組が観念的なものになっていたことに気付いた▼以来毎日の食事を大切にし、夫婦そろっての夕食を心がけているという。山根さんが考える民主主義とは、肩肘張って拳を上げて叫ぶようなものではなく、台所に転がっているようなもの。すなわち一人一人が大事にする暮らしの集合体が対等に生きられる社会ということだ▼こうした見方を欠く旧態依然の政治と組織を本気で省みたのであれば「女性ならではの感性を発揮して」とした、第2次再改造内閣で起用した5人の女性閣僚への岸田文雄首相の発言は受け入れられたはず。女性活躍推進を掲げながら「男性中心」を前提とした性差別意識が透けて見えたからこそ、批判が出たのだろう。副大臣・政務官人事で女性の起用がゼロだったことが裏付けた格好だ▼政権だけを批判はできまい。同様の組織や人事は、企業や社会に多く残る。多様性が低い集団は、同調圧力などで不合理な結論や行動を引き起こすグループシンク(集団浅慮)に陥りやすい。硬直化を避けるため、政権を他山の石としたい。(衣)