鮮やかな太刀さばき、勧善懲悪の痛快さは時代劇の魅力。子どもの頃、父と一緒にチャンバラ映画を見ることがあった▼強く記憶に残っているのが「旗本退屈男」で、主演は市川右太衛門さん。俳優北大路欣也さんの父といった方が、今は通りがいいかもしれない。額にある三日月形の刀痕がトレードマークで、「天下御免の向こう傷」が決めぜりふ。豪快な殺陣に見入った▼こちらの立ち回りはいただけない。国会で時折起こるもみ合い。以前は乱闘もあった。国会職員には、日米安保条約改定など与野党対立が激しかった時代に導入された別名「乱闘手当」とも呼ばれる国会特別手当があったほど。今の政治家は、切れ味ある発言や聴衆受けを狙うものの、麻生太郎自民党副総裁のように病気を比喩にして批判を浴びたり、失言したり。言葉への敏感さが欲しい▼時代劇では「円月殺法」を使う「眠狂四郎」も有名だが、国会での居眠りは御免被りたい。審議が退屈なのか。もみ合いとともにマイナスイメージが強くなる▼暇を持て余す意味で使われる「退屈」は、もともと仏教用語だ。「修行の苦難に疲れ果てて気持ちが後退し、精進の気力が萎(な)えて屈すること」を表したという。国会審議中、こくりこくりと舟をこぐのが「国を良くすることの苦しさや難しさに疲れ果てた」という姿であるなら、もっと政治への関心や信頼は高くなっていたはずだが。(彦)