オオクワガタ
オオクワガタ

 「名探偵シャーロック・ホームズ」シリーズも繰り返し読むと、事件と関係ない描写に目が向く。つじ馬車が行き交う頃のロンドンの一角に珍獣を集めた怪しい家があり、ヒメアシナシトカゲという足が退化した蛇のような動物を放し飼いにしている。ゴキブリ退治に有用らしい。ついゲジゲジを思い出した。見た目不快だが、ゴキブリを食べる益虫だ▼害虫を天敵に駆除させるのは生物的防除といわれる。テントウムシ科のベダリアテントウは、ミカンの害虫を食べるので外国から移入された。成功例に数えられるが、深刻な失敗例も多い。サトウキビ畑に放されたオオヒキガエルは毒性があり、天敵もなく害虫以外もむさぼり食って増殖した。人間が自然の摂理を見誤ったか▼嫌がられるゴキブリも気の毒な一面があり、家に現れる大半が外来種。戦後に保温性の高い住宅が普及するにつれ定着し、悪者度が増した。多くの種は森など目に触れないところで、動物の死骸や朽ち木、落ち葉を食べて掃除してくれる▼昆虫は日本だけで推定10万種いるとされ、地味ながらも他の動物の餌となり、受粉で働き植物を支える。絶滅の恐れがあるとして、環境省のレッドリストには865種が掲載される。オオクワガタやタガメなどが有名だ▼虫が苦手な人の気持ちは分かるが、秋の虫の声を楽しみつつ、森のゴキブリたちのような存在と営みにも思いをはせたい。(板)