将棋界は「藤井時代」が続きそうだ。それほど他の棋士を寄せ付けない強さを発揮している。
将棋の王座戦5番勝負で、竜王、名人など七つのタイトルを保持していた藤井聡太七冠が永瀬拓矢王座を3勝1敗で破り王座を獲得、21歳2カ月にして八大タイトルすべてを制した。将棋界は、2017年に七大タイトル戦から八大タイトル戦に移行しているが、八冠を制覇したのは史上初めて。前人未到の快挙に心から拍手を送りたい。
藤井八冠は記者会見で「まだまだ足りないところが多いと感じた」と語り、将棋の道を究めようとする思いをにじませた。
タイトル戦は三冠、四冠、五冠、七冠などの時代があるが、全冠制覇は故升田幸三実力制第4代名人、故大山康晴15世名人、羽生善治九段に次いで4人目。藤井八冠は将棋界のレジェンドの系譜に名を連ねたことになる。さらに22年度に行われた一般棋戦でも、将棋日本シリーズ、銀河戦、NHK杯、朝日杯将棋オープン戦の四つに優勝し、その強さはまさに無双だ。
藤井八冠は、16年に最年少の14歳2カ月でプロ入りし、初対局から29連勝と鮮烈なデビューを飾った。20年には初のタイトルである棋聖を最年少で獲得。八つのタイトルのうち多くを最年少で獲得した。しかも、タイトル戦は18期すべてを制し、敗北は一度もない。今後は、タイトル戦の連勝記録をどこまで伸ばすことができるかに関心が集まるだろう。
藤井八冠は5歳で将棋を始め、近所の将棋教室で腕を磨いた。負けん気が強く、対局に敗れて大泣きしたことも度々あったという。10歳で杉本昌隆八段に師事。プロ入り前後から人工知能(AI)を研究に取り入れ、序盤と中盤の戦いぶりが格段に向上した。
将棋教室では、詰め将棋に打ち込み、プロも参加する詰将棋解答選手権で優勝。これがいまの終盤の強さにつながっている。王座戦でも終盤の正確な読みが際立った。
デビュー以来の快進撃は、お茶の間の話題になり、将棋ブームを引き起こした。インターネットテレビで対局の生中継を楽しむ「観(み)る将」と言われるファンが増えた。
タイトル戦で藤井八冠が注文する食事は「勝負メシ」と呼ばれ、各地のホテルや旅館では「藤井さんが食べた食事」を注文するファンが増え、観光やにぎわいの創出にも一役買っている。勝ってもおごらない姿勢を好ましく感じる人も多いはずだ。電車に乗るのが大好きな「乗り鉄」で、食べ物は麺類が好きだという。
だが日本将棋連盟は、藤井人気にあぐらをかいてはならない。むしろ、危機感を持つべきだ。日本生産性本部によると、日本で将棋を楽しむ人口は12年に850万人だったのが、21年には500万人に減少している。少子化やゲームの普及などが原因とみられる。
将棋界の発展には、将棋を知らない子どもたちにその魅力や面白さを伝える努力が必要だ。将棋を学ぶことで戦略的思考や持続力、集中力を鍛えることができる。
日本将棋連盟は来年、創立100周年を迎える。次の時代を切り開く立役者が藤井八冠であるのは間違いない。その頂に各世代の棋士たちが競い合って挑むことが、将棋のさらなる進化につながるだろう。