山陰両県の企業経営者らでつくる山陰インド協会と松江市の視察団は、インド初の国産空母を造ったコチン造船所や、トラクター販売台数世界1位のマヒンドラ&マヒンドラ(M&M)など世界的企業を訪れた。
M&Mでは、農機部門の最高責任者らの歓迎を受けた。「彼らがここまで準備してくれているとは」。資本提携する三菱マヒンドラ農機(松江市東出雲町揖屋)の齋藤徹社長は思わず驚きの言葉を発した。
M&Mは今年11月から1年間、日本の製造技術や働き方を研修するため、三菱マヒンドラ農機に優秀な選抜者10人を派遣。日本での学びが従業員の動機づけになると幹部が認識しているからこその動きだ。
日印両国は昔から友好関係にある上、近年外交関係も緊密さを増しており、日本が重要視されていることの表れにも感じられた。
▼知見や人脈生かす
多民族国家のインドでは、地域言語に加え、ヒンディー語や英語の3言語が使える人が多く、新しい知識の習得にたけた人が多い。グーグルやマイクロソフトなど世界的IT企業のトップにも出身者が目立ち、高度な人材を生み出す潜在力がある。
こうしたパワーを人口減少が進む山陰地方に取り込もうと、中海・宍道湖・大山圏域市長会や山陰インド協会は、人材交流に取り組んできた。
16年度以降、12人のインド人材が圏域のIT企業に就職した。21年に2人を迎えた東亜ソフトウェア(米子市新開7丁目)は、インド人材の知見や人脈を生かし、人工知能(AI)サービスの開発に着手し、事業の幅を広げている。
▼教育インフラ整備
一方で、12人のうち4人は既に退職した。定着のためには職場環境はもちろんのこと、子女教育や住居といった生活のサポートが欠かせない。来日したインド人材が家庭を持って定住したいと考えた時、選ばれる環境がなければ、インド人材の力を生かした地域振興は長続きしないだろう。
こうした点を踏まえ、上定昭仁松江市長ら視察団メンバーは鈴木浩駐インド日本大使と面会し、外国人たちが英語などで授業を受けられるインターナショナルスクールを設置するアイデアについて助言を求めた。
鈴木大使は「日本に暮らすインド人の教育インフラが取り残されているという指摘はあり、今後より大きな問題となるだろう。国の動きを待たず先行して取り組んでほしい」と話した。
▼ポテンシャル実感
多様性の国インドとの交流を、人口減少と高齢化が進む山陰の活力につなげるのは簡単ではない。それでも、山陰にとって今が最も重要な局面だと感じた。
日本の国内総生産(GDP)は現在3位だが、数年以内にインドが追い越す。人口3千万人を擁する南部ケララ州の政治・経済界が、人口60万人の中海・宍道湖・大山圏域と関係を築き、世界的大企業が視察団を歓待するのは当たり前のことではない。
日本の他地域に先駆けて交流を重ねた10年間の経験と今回の視察を通じ、関係者はインド人材が秘めるポテンシャルへの実感を強めつつある。せっかく山陰に来てくれた人材に定着してもらえる仕組みを地域で描き、実現する重要性は高い。インド人材が地域に入っていくことは今後、経済交流で実を上げるための光明になるはずだ。
(政経部・今井菜月)