外資企業の進出や投資が進む一方、インドは特有の商慣習や国情の違いなどで参入障壁も低くない=南部ケララ州コチ市
外資企業の進出や投資が進む一方、インドは特有の商慣習や国情の違いなどで参入障壁も低くない=南部ケララ州コチ市

 10月26日夕、インド南部・ケララ州を訪れた視察団一行は会談のため行政高官を待っていた。あと5分で着くはずだった要人は30分たっても来ない。結局、スマートフォンのビデオ会議に急きょ変更になった。

 「(高官に)会うために来たのに」。心得のない記者は面食らった。

 だが、約束をすっぽかされたり、後日に説明すらないことも珍しくないという。インドビジネスに携わった経験がある視察団の経営者は「いわゆる『インド時間』。慣れるしかない」。インドには独特の壁があるといわれる。その一端に触れた気がした。

 ▼宙に浮いた初稼働

 発展著しいインドと山陰両県の経済交流が始まって10年が経過した。これまで、両県の複数企業が政府開発援助(ODA)を活用した国際協力機構(JICA)の事業採択を受けるなどし、現地ビジネスの可能性を探ってきた。

 国情の違いや特有の商慣習を乗り越えながら、事業の布石を打ってきたが、未曽有の新型コロナウイルス禍にも襲われ、一筋縄ではいかない。

 建設業の松江土建(松江市学園南2丁目)は2015年、JICAの後押しを得て、湖や沼の水質改善事業の現地調査に着手。ニーズを確認し、17年から高濃度酸素水を供給して水質を向上させる装置を現地に持ち込み、実証実験に取り組む計画だった。

 しかし、州議会選挙による政権交代に伴って、関係を築いた行政職員が入れ替わり、調整が難航。21年2月にようやく事業開始の同意を得たところ、コロナ禍で渡航できなくなり、22年3月に断念を余儀なくされた。

 川上裕治会長は「(インドの)困りごとの手助けをできると思ってやってきたが、気持ちが折れる」と漏らした。中国では既に三つのダムで装置を稼働させるが、インドでの初稼働は宙に浮いた形となった。

 ▼環境保護に商機

 一方、11月中に現地でのビジネス展開に乗り出す企業もある。大成工業(米子市米原6丁目)は、水や電気を使わない環境に配慮した汚水処置施設(トイレ)の普及を目指す。廃棄物処理への関心の低さや関税の高さなど障壁はあるが、三原博之社長は「今後の経済発展と共に、環境意識は高まり商機は生まれるはずだ」と確信する。

 インドでは14年、一定規模以上の会社は、利益の2%を環境保護などのために支出することが法律で義務化された。大成工業はそこを狙う。利益を社会還元する大企業が、公衆衛生を向上させる同社製トイレを購入し、地方を中心に設置していく青写真を描く。

 海外投資を呼び込むため、インドではグローバル基準のビジネス環境整備が進む。世界の潮流であるESG(環境・社会・企業統治)の波が訪れつつあり、国や州政府が環境規制を強化していく流れにある。

 ▼撤退ケースが複数

 一方、インドに進出している日系企業約1400社のうち中小企業は15%に過ぎない。残りは、自動車のスズキやアパレルのユニクロに代表される大手だ。ただその大手でも、飲食や化粧品メーカーなど、インドから撤退したケースが複数ある。

 海外事業を担うマンパワーの不足をはじめ、語学力への不安、煩雑な関税や行政手続きへの対応-。発展目覚ましいインドの可能性を実感しつつ、視察団員たちは足元の現実も見つめた。