「こういうことだったのか」と納得した。
王将戦第3局を前にした26日の前夜祭での菅井竜也八段(31)の発言である。
「自分の将棋を指せれば、何も気にすることはない。明日から頑張ります」。
第1、第2局を落とし、苦しい展開だが、自然な笑顔もよく見せた。

こちらの当初の展開予想は覆された。理由の一つ目は、菅井八段が向かい飛車に振ったこと。現代振り飛車の第一人者ではあるが、三間飛車と中飛車が多く、向かい飛車は珍しい。
二つ目は、菅井八段が穴熊に入らず、美濃囲いにしたこと。第2局は美濃囲い(ダイヤモンド美濃)に構え、不本意な展開となったので、万全を期して穴熊に入ると思っていた。
三つ目は、珍しいことではないが、自分から角交換を仕掛けたこと。トータルで見て、第1、第2局と比べると、自分から局面を動かしていこうとの意思を強く感じる。

対する藤井聡太王将も居飛車のまま、自玉を左美濃に囲った。両陣営とも穴熊ほど堅固ではない。ボクシングでいうところのガードをやや下げ、中間距離での打ち合いといったところか。変な言い方だが、私たちが慣れ親しんでいる将棋らしくなってきた。
一度、交換した角をまた交換し、菅井八段が飛車を一路、右に動かした。35手目の▲7八飛だ。ここで藤井王将、「時が来た」とばかりに菅井八段の銀に歩をぶつけた。攻め合おうという無言の働きかけだ。
菅井八段の銀は構わず歩を取り前に出た。両対局者の読みがよくかみ合い、見応えある応酬だ。初日は44手目まで進み、菅井八段が手を封じた。

飛車が右に上下に機敏に動くところは、菅井八段の振り飛車ペースに映る。しかし、菅井玉のはるか遠くに作った藤井王将のと金の存在が何とも怪しい。
(板垣敏郎)
