とりあえず目の前の不安が取り除かれたといったところか。
松江、雲南、安来の3市を走る一畑バス4路線(マリンプラザ、御津、大東、荒島)の廃止方針を巡り、松江市が23日、一畑バスや雲南、安来両市との協議の結果、4路線とも代替策のめどが立ったと発表した。
松江市島根町と市中心部を結ぶマリンプラザ線は、一部の区間や便数を縮小しつつ、通勤、通学時間帯などに配慮して存続すると方針転換。他の3路線は廃止になるものの、同市営バスや松江、雲南両市のコミュニティバスなどを充てて対応する。
一畑バスが示した廃止時期は9月末だが、島根県教育委員会によると、3市8校の県立高校で少なくとも71人の生徒が通学に利用。松江市立皆美が丘女子高や同市内の私立4校にも影響を受ける生徒がいる。
何より、今春の高校受験を控える中学3年生の進路選択にも左右する問題。マリンプラザ線の存続は、市の要望を受けて一畑側が再考したという。
会見した上定昭仁市長は、県立高校入試の願書の受け付けが29日に始まるのを踏まえ、「路線が確保される点を考慮してもらい、進路選択の参考にしてほしい」と呼びかけた。
ぎりぎりのタイミングではあるが、気をもんでいた生徒や保護者には朗報だろう。気兼ねなく進路を選んでほしい。
とはいえ、あくまで眼前の不安が払拭されただけで、廃止や縮小の理由である運転手不足が解消されたわけではない。4月から運転手の残業時間規制が強化され、路線バスをはじめとする運輸や物流業界などで人手不足が深刻になる「2024年問題」が本格化する。
松江市交通局もこの問題を控え、運転手の増員がなければ現状ダイヤでの運行は困難とし、前倒しで23年10月に市営バス4路線の減便に踏み切った。
何も山陰両県に限った動きではない。帝国データバンクは23年11月、公営バスを除く全国の民間路線バス運行業者127社のうち、約8割の98社が23年中に「減便・廃止」を実施し、24年に予定・検討中を含めると計103社に膨らむという調査結果を発表した。事態は深刻だ。
一方で、思い切った対策を講じる事業者も出てきた。長野市の長電バスは21日から「運転手が充足されるまで当面の間」の期限付きで、通学・通勤・通院に比較的影響の少ない日曜日の運休を始めた。
冬山シーズンや訪日外国人客の輸送など繁忙期を迎え、運転手の良好な労働環境を担保するのが狙いで、「苦渋の選択」という。周知不足だったのか初日は一部で混乱が見られたが、平日の路線維持を考えると、やむを得ない措置だろう。
また、東京都内で自治体の委託を受け、コミュニティ(路線)バスとスクールバスを運行する日立自動車交通は、両方の業務を交互に行う「ハイブリッド乗務」を新たに導入。業務の平準化によって運転手の休みが取りやすくなり、長時間労働の解消にもつながっているという。
こうした取り組みは山陰両県のバス事業者にとって参考になるだろう。運転手の確保には、待遇改善が待ったなしだ。同時に、運行日や便数などに影響が出る場合は、丁寧な説明と利用者の理解が求められる。