「悲しむのは私たち家族が最後」。2020年2月、松江市内の認可保育施設の節分行事で発生した園児の窒息死亡事故。豆が気道に詰まり長男=当時(4)=を亡くした家族が、再発防止に取り組んでいる。事故を受けて市内の保育園などでは豆の使用がなくなったが、全国でさらに注意、関心を高め、尊い命を守ってもらおうと啓発している。
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保育施設であった節分行事。鬼役の保育士が遊戯室に登場するイベントの最中、長男は倒れ、床をたたいて苦しさを訴えた。職員は機嫌を損ねたと捉え、声をかけなかった。
行事の写真には、鬼から友人を守ろうとする長男が写っていた。「活発で優しい子だった」と母親(42)は振り返る。
市の検証部会の調査では、豆は節分行事の最初に口にしていたが、いつ気管に詰まったのかは分からなかった。「子どもたちが安心安全に行事ができるのか、考えていれば防げた事故だった」と振り返る。
事故の1年後、「繰り返すことは、息子の命を無駄にしてしまう」と、夫(40)とともに再発防止活動を始めた。

「パッケージを見て、誰かの気づきになり、命を守ることにつながったらいい」と、5歳以下の子どもに節分豆を食べさせないよう呼びかける表示を、子どもの事故死防止に取り組む都内のNPO団体とともに全国の製造メーカーに働きかけた。複数に応じてもらった。
昨年の節分に呼びかけた南目製粉(松江市八幡町)は、今年から節分豆の商品に「5歳以下のお子様には食べさせないで」というシールを付けた。同社の原真理子社長(61)は「子どもの幸せを願う行事で、事故があり悲しかった。大人が気を付けられるよう協力したい」と賛同した。

事故以降、市内の認可保育所、幼稚園、幼保園などの全104施設は、豆まきや食事で乾燥したいり豆の使用はなくした。市は毎年、節分行事の内容を確認し、誤嚥(ごえん)による事故を防ぐ研修会を実施。美保関東保育所(同市美保関町森山)は、事故前まで豆を庭に向かって投げていたが、拾って食べるおそれもあるため、丸めた新聞などに変えた。
夫婦は「全国の施設で豆まきが完全になくなってはいない。事故があった松江から対策が広まってほしい」と願い、今後も活動を続ける。
(森みずき)
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松江市の園児窒息死事故
2020年2月、松江市の認可保育施設で節分行事中に男児=当時(4)=が、気道に豆を詰まらせて窒息死した。施設は3歳未満児は丸めた新聞紙を代用して行事を行っていたが、3歳以上は豆を食べたり、まいたりしていた。市が設置した検証部会は報告書で、施設が3歳以上も誤嚥の危険性がある「基本的な認識が欠けていた」と指摘した。
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