作家の向田邦子さんはエッセー『ゆでたまご』で、足の不自由な同級生の少女との思い出を克明に描く。背が飛び抜けて低く、勉強ができない少女を向田さんは疎んじていたという。見方が変わったのは小学4年の遠足。出発前に少女の母が「これみんなで」と級長の向田さんにゆで卵が入った風呂敷を押しつけた。列の先頭で肩を波打たせ必死に歩く少女と、離れた場所で見守る母の姿に「小さな愛」を感じた。愛という字を見ると<ねずみ色の汚れた風呂敷とポカポカとあたたかいゆでたまごのぬく味と、いつまでも見送っていた母親の姿を思い出す>という。
地球を救う愛が矢面に立たされている。日本テレビ系列の日本海テレビで募金の着服が発覚し、系列局でつくる24時間テレビチャリティー委員会が能登半島地震の募金を見送っている。寄付文化を育んできた委員会にとっては悔しいだろう。
委員会は現金管理の外部委託といった再発防止策を示した。冷めた見方を覆せるかどうかは、倫理観がしっかりしていた昔に時計を巻き戻せるかに懸かっている。
冒頭のエッセーで向田さんは<私にとって愛は、ぬくもりです。小さな勇気であり、やむにやまれぬ自然の衝動です>とする。
かつてない批判が24時間テレビに寄せられている。萩本欽一さんが声をからした路線に立ち返り、小さな愛に一隅を照らせないか。番組の役割はまだ終わっていない。(玉)