将棋の藤井聡太八冠はその道の一流らしい。といっても本業ではなく、インタビューの受け答えである。「間」をしっかりと取って余分な単語を省き、自身の考えを的確に言語化している。記者の質問に「そうですね」と前置きし、数秒考えて答える。将棋は指し手に迷う局面でも即断する早見えだが、応答は熟考タイプだ。
舌鋒(ぜっぽう)鋭い早見え政治家の発言が物議を醸している。日本維新の会の共同代表を務める吉村洋文大阪府知事が、大阪・関西万博に批判的なコメンテーターを名指しし、万博会場に「出禁」にすると述べた。発言した場は支持者が集まる集会。気が緩んだのか、さすがに「大阪ジョーク」と捉えるのは無理がある。権力を乱用した言論統制に当たるとして撤回や謝罪を求める声が相次ぐ。
スピーチ指導を専門とする長崎大の矢野香准教授によると、数秒の間を取るかどうかで失言率は大きく変わるという。一呼吸置けば感情的にならず、さらに相手に余裕を持って回答しているような自信を印象付ける。確かに藤井八冠が答える前に水を含むしぐさは貫禄を感じさせる。
「間合い」や「間抜け」との言葉があるように、間は単なる空白の時間ではなく、無言で何かを伝える時間や、物事を運ぶ上で大切な頃合いを意味する。
沈黙を恐れずに間を取る。「県庁はシンクタンク。野菜を売るのとは違う」と発言したどこかの知事に伝えたかった。(玉)