NHKで人気番組だった「プロジェクトX」が今月、18年ぶりに復活した。目立たずともひたむきな人や事業に光を当て、新幹線や瀬戸大橋建設、温水洗浄便座の開発など、規模も中身も多彩に現場を追った。
世相の違いがあり、また支持されるとは限らない。前の時は戦後の焼け野原から復興し、英知と技術で先進国の仲間入りを果たしたという歴史の共通認識があったと思う。先輩諸氏の血のにじむような努力が、現代日本の栄光につながっていると捉え共感した。今はどうか。
特に国を支えた科学技術が衰え、証左でよく挙がるのが日本発の論文数だ。1980年代~2000年代初めは量が多く、世界2位の時期があったが23年の公表で5位。注目され数多く引用される論文に限ると近年、韓国やスペイン、イランに抜かれ過去最低の13位だった。
理系離れ、足りぬ研究者に予算、目先の利益優先で軽視される基礎研究と良くない話が聞こえる。「失われた30年」とともに、消えそうな自信や誇りが番組の評判にどう影響するのか注視する。
番組冒頭と終了時は前と同じ中島みゆきさんが歌い、曲も変わらない。優れたアートは回る時代に関係なく超越するということか。アートの語源はラテン語のアルスで、芸術というよりは身近な技術、知識、習慣の意味がある。くすぶっていても丁寧に生きれば、「地上の星」にいつの日かなれるかもしれない。(板)