「用例採集」とは、新しい言葉や言葉の用法の変化などを文献や身の周りから集める作業のこと。イメージしやすいのは、辞書を作る編集者の姿。気になった言葉があれば、どこでも専用カードに書き込んでいく。三浦しをんさんの小説を映画化し、11年前に公開された『舟を編む』で知った▼先月、テレビドラマを見ていてカードに書き込みたくなる言葉を見つけた。「ずる働き」。手元の広辞苑を広げると、「ずる休み」(正当な理由がなく横着して学校や勤務を休むこと)はあっても、その反義語であろう「ずる働き」なんて当然掲載されていない▼報道記者を扱ったドラマで時間外労働をこなす先輩に若手が訴える。「そういうの美しいとか思ってるのかもしれないですけど、単なる『ずる働き』ですからね」「本当は休むべき時間にも働いてるんです。そしたら会社はその仕事量を時短でこなせると判断しちゃいますよね。それって私たちも同じことしないと同じ評価をもらえないんです」▼胸に響いたのは同様なことを後輩に言われた経験があるから。やりたいままに新しい仕事を増やしてきたが、「後任のことを考えてますか」とたしなめられた▼生産性を高めながら勤務時間内で仕事を終えるには、個々の能力を高めるか、人員を増やすしか思い付かない。簡単にできそうにないが、「ずる働き」という言葉が辞書に載る時代にはしたくない。(健)