春にハナモモが咲き誇る島根県邑南町上口羽の川角集落。集落関係者らの努力で美しい景観を作り出している(資料)
春にハナモモが咲き誇る島根県邑南町上口羽の川角集落。集落関係者らの努力で美しい景観を作り出している(資料)

 高校卒業まで島根県西部の山間部の町で過ごした。幼い頃、地区の子ども会に、町の中心部に住んでいる子どもが参加していたのを不思議に思ったことがある。親に尋ねると、1963(昭和38)年の豪雪や高齢化などで集落ごと中心部に移ったという▼それでも子ども会や季節の行事などは、かつて集落があった当方の地区で一体となって行われてきた。先日、帰省した際、その集落があった場所を訪ねた。幹線道路から細い道に入り、川沿いに4キロほど。いくつかの建物や農地の跡があり、生活の面影を残していた▼モデル事業として10戸余りが転出した後、集落内を通る道は舗装道路になったが、「道が良くなるなら、移転するんじゃなかった」という住民の声もあったという。それは、実際に訪れてみて感じたことでもあった▼島根県の中山間地域で、いわゆる「限界集落」が増えているという記事が3月の本紙に載った。県内3748集落のうち高齢化率50%以上、世帯数19戸以下が918カ所。確かに県内を車で走ると空き家が増えていると感じる▼ただ、地理的条件や「限界」の度合いは、集落によってさまざまだ。住んでいる人は、地域の人たちとのつながりや土地を守ることへの強い思いがあるだろう。「集落だった場所」のもの悲しい風景は、今も脳裏に浮かぶ。将来を見据え、集落の暮らしをどう維持するのか。自分ごととして考えたい。(彦)