苔に蓄えられた雨水
苔に蓄えられた雨水

 「人をこけにするな」の「こけ」を、苔(こけ)のことだと誤って思っていた時期があった。じめじめした所にあり、ヒトや獣に踏まれ、山の斜面で光が遮られた道路を車や自転車で通る時、路面がうっすら緑色になっていると、スリップするのではないかと気がめいる▼要は苔に対し「踏まれる」「虐げられる」「日陰の存在」といったマイナスのイメージばかり持っていた。ちなみに冒頭の言葉の「こけ」は「虚仮」と書き、思慮が浅いことや、愚かなことを指す▼そんな虐げられた存在の苔に光が当たっている。江津市では複数の生産者が育成。盆栽やインテリアとして活用されているという▼コケ植物は養分や水を吸収する根を持っていないものの、自重の20倍の保水力があるとされる。山陰両県で約78万ヘクタールにも及ぶ森林の地表を、コケ植物がどれだけ覆っているかは定かではないが、治水における効用は無視できないものがある。大気中への熱エネルギーの放射量軽減など、温暖化対策としても注目されている▼地球レベルで洪水や温暖化が問題になっている時に、文字通り「縁の下の力持ち」でありながら、「暗い場所にある」だの、「踏むと滑るから嫌だ」だのといった評価は誤解の最たるもの。それこそ「苔をこけにしている」と恥じねばならない。自然界の苔にせよ、社会の目立たない所で貢献している人にせよ、縁の下の力持ちに敬意を払いたい。(万)