麻織物の神として奴奈川姫を祭る重要文化財の松苧神社=新潟県十日町市(資料)
麻織物の神として奴奈川姫を祭る重要文化財の松苧神社=新潟県十日町市(資料)

 〝腹回り〟の衣替えとして腹巻きを薄手のものにしたのに続き、室内履きを夏用に変えた。通気性に優れたジュート(黄麻)が中敷きに使われ、素足に心地よい▼「麻」と言ってもリネン(亜麻)やヘンプ(大麻)、ラミー(苧麻)など20種類近くある。麻織物の最高峰である新潟県南魚沼の「越後上布」や沖縄県宮古島の「宮古上布」は化学処理していない苧麻糸が使われ、伝統的な技術が国の重要無形文化財に指定されている▼1200年以上の歴史があるという越後上布。「源流は出雲」との仮説を先日、麻がテーマの講演会で聞いた。ここでぴんとくる人もいるだろう。新潟と出雲の古い交流といえば、八千矛(やちほこ)(大国主)の神と高志国の沼河比売(ぬなかわひめ)とのロマンスが古事記に見える。史実として両国間でのヒスイ交易の存在は知られるが、はて織物文化の伝導は▼奴奈川姫(沼河比売)を麻織物の神として祭る松苧(まつお)神社(新潟県十日町市)の由来を、地元の教育委員会がまとめた『松代町の文化財』で調べると「出雲文化を十二分に吸収したと思われる奴奈川姫及び秦一族によって、はじめて当地に根付いた産業であり、技術であると考えられる」との記述▼こうなると「出雲人」として越後上布の着物が欲しくなるが、おいそれと購入できる代物ではない。新潟を旅し、松苧神社にお参りするのを当面の楽しみとし、それまでに出雲の麻織物の歴史を探ってみようか。(衣)