お金を下ろしに銀行に行ったら、入り口の目立つ場所に張り紙がしてあった。新紙幣の取り扱いについて、とある。20年ぶりにデザインが一新される紙幣の発行が間近に迫ってきた▼財布の中にあるとうれしいのは渋沢栄一の肖像だが、目にする機会が多くなるのはやはり千円札の北里柴三郎だろう。「近代日本医学の父」と称され、現在の千円札に描かれている野口英世は、北里が率いた伝染病研究所の門下生でもある。細菌学の研究者としての功績もさることながら、多くの優れた医師や研究者を育てたことで知られる▼その一人に益田市美都町都茂出身の秦佐八郎がいる。北里の下で感染症のペストを研究し、留学したドイツで梅毒の特効薬を発見した。気の遠くなるような緻密な実験に根気強く取り組み、「仕事は楽しみをもって進めれば苦はない。天運はこれを助ける。決して自分の功などと考えるべきでない」との言葉に人柄がのぞく▼ドイツ語でカミナリを意味する「ドンネル先生」と弟子たちに呼ばれ、厳しくも慕われた北里とどんな信頼関係で結ばれていたのだろうか。そんな想像を膨らませながら、生家の隣に立つ秦記念館の展示資料を見るのも面白い▼近くのふれあいホールみとでは新紙幣の発行を記念し、恩師の北里と秦、その同志たちの功績を紹介する企画展があすから月末まで開かれる。入場は無料。新千円札を崩さなくていい。(史)