日が長いこの頃、多少残業をしても帰宅時は明るい。新聞社がある松江市から宍道湖沿いの国道を西進すると、湖面に反射する夕日の光が大きな矛のようで、国生み神話のイザナギとイザナミが手にした天沼矛(あめのぬぼこ)はこうした光の形から着想したのでは、と勝手な想像を膨らませる。
40年前、島根では老若男女が想像力をかき立てたことだろう。1984年7月、出雲市斐川町神庭で全国最多の358本に及ぶ弥生時代の銅剣が出土。翌年には銅鐸(どうたく)や銅矛も見つかった。出雲王権の存在を裏付けるかのような大発見で、荒神谷遺跡と名付けられた。誰が何に使い、なぜ埋めたのか。誰もがにわか考古学者となって仮説を立てたはずだ。
当時の町はそんな人たちの謎解きを「ふるさと創生1億円事業」を使って募集。全国から1280編が寄せられ、専門家もうなった入賞作141編を収めた10巻のブックレットは、今も荒神谷博物館のベストセラーという。
とはいえ、熱心な歴史ファンでなければ「すごいね」で終わりがちなのが地味な古代遺跡の悲しさか。私も足を運んだのは7年前の取材が初めて。ただ、原始・古代が神髄ともいえる出雲の歴史にあって、そこから探っていった地元の歩みの面白さは、愛郷心の深化につながった。
郷土史を知る喜びは、自分がなぜそこで暮らしているのかの解に、ぼんやりとでも至るところにあると、発掘40年の節目に思う。(衣)