記録的豪雨で県道が崩落し、孤立状態が続く出雲市日御碕地区に11日、本紙取材班が入った。ライフラインは機能しており、住民生活に目立った混乱は見られなかったが、物資不足や医療体制への不安は根強い。出雲日御碕灯台周辺に観光客の姿はなく、土産物店はいずれも休業。住民からは、道路の早期開通を求める切実な願いが聞かれた。
(出雲総局報道部・佐野卓矢、本社報道部・白築昂)
取材班2人は、安全に留意して崩落現場近くの迂回(うかい)路を通り、徒歩で同地区に入った。
日御碕コミュニティセンターでは、住民が市からの支援物資を搬入し、飯塚俊之市長を交えて各町内の代表ら30人で対策会議を開いた。必要な物資として食料や薬のほか、生理用品、洗剤、ガソリン、LPガスが挙がり、家庭ごみやし尿処理も議題となった。
最大の懸案は道路。住民からは「通行できるまでどのくらいかかるのか」との質問が相次ぎ、飯塚市長は「方針を早く示したい」と答えた。
私有地を歩けば崩落現場を迂回できるが、途中に坂があるため、要介護者の移動が難しい。漁師の高木潤さん(44)は「デイサービスを受けられないお年寄りがいる」と窮状を訴え、システムエンジニアの飯塚哲弘さん(57)は「自分は在宅ワークだが、仕事で毎日、市内に出かけないといけない人もいる」と述べた。
548人が暮らす地区の高齢化率は52・2%。田中秀雄さん(79)は「1カ月分の薬は確保しているが長期戦になれば心配だ」と明かした。一方で、高橋弓江さん(91)は「食べ物のストックはある」と気丈に振る舞った。
土産店や飲食店が並ぶ通りには歩く人の姿はなかった。土産店を営む高木レイコさん(82)は、書き入れ時の夏休みを前に起きた災害に「どうしようもない」と苦笑いを浮かべた。
休業が目立つ中、店を開けていたのが、日御碕神社近くで生鮮品などを扱う日用品店。卵や肉、牛乳、インスタント食品が品切れや品薄になっていた。崩落発生後の10日に住民が買い求めたという。12日から仕入れを再開するが、迂回路区間は手で運ばないといけないため量が限られる。店員の蒲生恵美さん(56)は「難しさはあるけど、地域の生活を支えるために頑張るだけ」と話した。
能登半島地震を受け、孤立を想定した地区の防災訓練を秋に予定していた。日御碕地区自治協会の加地崇志会長(73)は「迂回路がないのが問題だ。行政は目の前の課題だけでなく、長い目で見て道路整備を進めてほしい」と語気を強めた。