冒頭から個人的な思い出話で恐縮だが、「結婚したい人がいる」と親に改まった気持ちで報告するために選んだ場所が、旧島根県佐田町(現出雲市)にある温泉宿泊施設「ゆかり館」だった▼1996年のこと。前年の12月にオープンした施設は、広い中庭やレストランがあり、風格を備えていた。実際、96年は年間14万人を超える来館者があり、絶頂期だった。現在は出雲市から譲渡を受けた運営会社が破産手続きに入り、営業はしていない▼島根県内では、平成の大合併前に旧市町村で整備した温泉施設などの娯楽施設が、老朽化に伴う維持費の増加もあって「扱い」に困っているケースが少なくない。出雲市は比較的早く問題に手を付け始め、次々に民間譲渡を進めた。ゆかり館もその一つで、旧佐田町の行く末を案じた地元有志が中心となった会社で、2018年に運営を引き受けた▼市の政策を否定するわけではないが、その後のゆかり館は、コロナ禍のあおりを受けて苦戦。結果的に見限られた形となっている▼市場の原理では「運が悪かった」「投資が過大」ということだろうが、政治で救う道はないのか。関係者が地元議員に当たっているものの、残念ながら膝を打つような妙案はないという。周辺にはパワースポットとして有名な須佐神社もある。潜在能力からすると巨大な空き家にするにはもったいない。知恵が出ないのが何とも歯がゆい。(万)