JR出雲市駅に到着した国鉄色の特急「やくも」の車両「381系」。左は新型車両の「273系」=6月14日、出雲市
JR出雲市駅に到着した国鉄色の特急「やくも」の車両「381系」。左は新型車両の「273系」=6月14日、出雲市

 <雪の降る車窓。私の心は不安でいっぱいだった>。米子市に住む松岡美智子さんの随筆の書き出し。JR西日本山陰営業部が主催した特別企画「一人ひとりのやくも号 思い出エッセーコンテスト」で最優秀賞に選ばれた。タイトルは「小さな世界を広げてくれた『やくも』」

 内容は高校3年生だった50年前の思い出だ。受験で岡山に向かうため、運行開始間もない特急やくもに父親と2人で乗車した。雪化粧した山々を見るうち不安が募ったが、岡山に近づくにつれて田畑に日が差し、「よし、頑張るぞ!」という気持ちが湧いてきたという。

 わが身を振り返ると、鳥取県中部の町から大学進学で上京したのが40年前。特急あさしおで京都へ向かい、新幹線に乗り換えたのだが、手荷物を多く抱え、つらかった記憶しかない。

 話を戻すと、今夏、やくもに久々に乗った。新型車両の美しさとともに印象に残ったのが、反対列車と行き違う際の「待ち合わせのため停車します」という車内アナウンス。以前は伯備線でも「行き違いのため」としていたが、「縁結びを願い出雲大社へ向かう方にとって『行き違い』は残念。『待ち合わせ』にすればロマンチックになる」との乗客の指摘から11年前に変更した。粋な計らいだ。

 松岡さんの体験から半世紀。全国には利用減で廃止の危機に立つ地方路線も多い。「小さな世界」を広げる鉄路を見捨てていいのか。(健)