喜びも半分といったところか。大相撲名古屋場所千秋楽で、鳥取城北高出身の大関照ノ富士が横綱白鵬との全勝対決で敗れ、優勝を逃した。確実になった令和初の横綱昇進に花を添えられず、悔しさをにじませた▼とはいえ見事な「V字復活」だ。両膝のけがなどに苦しみ、大関経験者として史上初めて序二段まで降下。再入幕した1年前の7月場所で30場所ぶりの優勝を飾ると、一気に最高位へ駆け上がった▼力士としての礎は、2010年にモンゴルから相撲留学した鳥取城北高時代に築かれた。190センチの上背。腰が重く、まわしを取ってから引き込む力は際立っていた。半面、懐に飛び込まれて、もろ差しで敗れることも。現在は校長も兼ねる石浦外喜義総監督が授けた秘策が「相手の腕を決めて前に出ろ」。以来、怪力を生かした「きめだし」は十八番(おはこ)になった▼同校相撲部のモットーは「嘘(うそ)のない稽古」。自分をごまかすことなく稽古に打ち込めば、必ず道を開けるという意味だ。大けがで地獄を見た29歳も高校時代のモットーを忘れていないだろう。今も激しい稽古を積んでいる▼鳥取ゆかりの横綱誕生は1973年に昇進した琴桜(倉吉市出身)以来。32歳の遅咲きだった琴桜は体力の衰えもあり、横綱在位8場所で引退した。鳥取の大先輩に並ぶ5度目の賜杯にあと一つと迫る照ノ富士。きのうの悔しさを糧に記録を伸ばしてくれそうだ。(健)