このところ初物を頂くことが多い。ナシにリンゴ、ブドウ、サンマ、サツマイモ…。「実りの秋」を感じる日々だ。「初物七十五日」という言葉があるように、旬のはしりや出始めたばかりの初物には特別な力が宿っており、口にすると寿命が75日延びるといわれてきた▼75日といえば、1年を五つに分けた期間に相当する。日本では梅雨時分に当たる「長夏(ちょうか)」を四季に加えて五季とする考え方もあり、初物を食べればその季節一つ分のエネルギーをもらえるということだろう。種をまき、発芽してから収穫までが約75日の農作物が多いのも、日数の根拠の一つという▼いずれにしろ初物は、変わらぬ巡りと実りを実感できてありがたい。まずは神棚や仏壇に供え、守ってもらっている神仏やご先祖様に差し上げる家庭が多いのではないか。頂き物もしかり。先に手を付けると叱られた記憶がある。ただ核家族化が進み、神棚や仏壇がない家も多く、こうした風習はいつかなくなるかもしれない。まさかありがたいと思う心までは消えないだろうが…▼文化庁が発表した「2023年国語に関する世論調査」によると、動物などがふんわりと柔らかそうなことを意味する「もふもふ」や、のんびりするという意味の「まったり」といった新しい表現が浸透しているそうだ▼一方で消え行く言葉や意味もある。消してはならぬ心と言葉を秋の味と共に体に入れる。(衣)