「突け、心を。」-。何とも直接的で不思議なキャッチコピーだ。ただ、それが日本フェンシング協会のものだと聞くと、「うまい。1枚」と座布団をあげたくなる。
2人の選手が向かい合い、片手に持った剣で互いの体を突いて勝敗を決めるフェンシング。何となく知ってはいても、実際に見た経験のある人は少ないだろう。その認知度と人気アップに尽力するのが、2008年北京五輪個人フルーレで日本史上初の銀メダルを獲得した太田雄貴さん(38)だ。
17年に協会会長に就くと「フェンシングを取り巻く全ての人に感動体験を提供する」という理念を設定。企業と連携した初心者向けの体験教室を始め、大会ではポイント獲得と同時に光るLEDディスプレーも導入した。試合状況を分かりやすくするためだ。
「メダルを取ればお客さんも来る」と言われて奮起したのに、五輪後の会場はガラガラだった。そこで「人々に感動を届ける」ことで熱心なファンをつくり、その人気をマスコミに取り上げてもらい認知度を高める作戦に変更。チケットも手売りし、19年の日本選手権では2日間で3千人以上も集客した。
会長退任後も全国を飛び回ってPRしており、先日は松江市で講演。「高津川のアユが一番好き」という言葉に感動していた来場者もいた。相手の懐に飛び込み心も射抜く。「突け、心を。」。どんな業界にも共通する成功の秘訣(ひけつ)だろう。(健)