「人間は直線的に縦に成長しているとおもいやすいが、木の年輪のように、横に一皮ずつふくらんだかのように成長していると考えたほうがいい、輪切りにしたとすると、いつも芯には子どもの時代が息づいているのだ-この谷川さんの考え方は実に的確だとおもっていることも、書いておきたい」▼島根県津和野町出身の画家・安野光雅さんが幅広い友人の中から50人を選び、その交遊録をまとめた著書『会えてよかった』(2013年刊)の一文。谷川さんとは、戦後日本を代表する詩人として海外でも評価された谷川俊太郎さんのこと。画家と詩人の組み合わせで、数々の著書を世に送り出した▼谷川さんもまた、安野さんのことを認めていたようだ。4年前に安野さんが94歳で旅立った際、こう追悼していた。「同じビルの中に仕事場を持っていた時期もあり、すごく包容力のある人柄だと感じていました」▼「東京生まれではないところにも、魅力があったように思います」とも。東京で生まれ育った谷川さんにとって、古里・津和野の美しい風景や思い出が原点になっている安野さんの作風が、まばゆく映っていたのかもしれない▼「もう会えないと思うと、やっぱり残念ですね」と、安野さんを悼んでいた谷川さんが92歳で亡くなった。刻んだ年輪は相当なものだろう。ただ安野さんと同様、作品の芯には子ども時代の記憶が息づいていたはずだ。(健)