韓国の尹錫悦大統領に対する弾劾訴追案の採決に先立ち、国会の本会議場を出る与党「国民の力」議員ら=7日、ソウル(聯合=共同)
韓国の尹錫悦大統領に対する弾劾訴追案の採決に先立ち、国会の本会議場を出る与党「国民の力」議員ら=7日、ソウル(聯合=共同)

 何とも不思議な光景だった。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が「非常戒厳」を宣言したのは憲法違反だとして野党側が提出した弾劾訴追案を採決するため、7日夜に開かれた韓国国会の本会議。可決するには保守系与党から8人以上の賛成が必要だったが、与党はほぼ全員が退席。投票の成立要件を満たさず廃案になってしまった。

 16年前に日韓記者交流事業で訪韓し、舞台となったソウルにある国会議事堂の本会議場を視察した。全ての議員席にコンピューター端末が設置されていると説明を受けたが、肝心な議員がいなければ宝の持ち腐れだ。

 ソウルでは総選挙の様子も取材した。驚いたのが、大音量のテンポの速い音楽に乗って政党カラーのおそろいの服を着て踊る若者たちの姿。韓国では独裁政治を許さないため、有権者が意識的に与野党の議席数が拮抗(きっこう)するよう投票する傾向があると聞いた。政治に対する日本との意識の違いを痛感した。国政選挙の投票率を見る限り、それは今も変わらないだろう。

 今回の非常戒厳は、宣言を受け、すぐに国会へ駆け付けた与野党議員190人全員の賛成で解除要求決議案を可決したことで、失敗に終わった。国会前には危機感を抱いた多くの市民が押し寄せ、大統領の退陣を求めた。

 日本の現行法に戒厳の規定はないが、仮に民主主義を脅かす緊急事態が起きた場合、議員や国民は体を張って阻止できるのか。少し不安になった。(健)