志村ふくみさん。今年100歳を迎えた(資料)
志村ふくみさん。今年100歳を迎えた(資料)

 人間国宝の染織家・志村ふくみさんは9月に100歳を迎えた。滋賀県出身。30歳を過ぎての離婚を機に幼子2人と離れ、この道に入った。教えを請うたのは、染織家を志しながら家庭との両立で諦めた母。

 初めての作品が藍染めのつなぎ糸をふんだんに織り入れた『秋霞(あきがすみ)』で、衣桁(いこう)にかけると母から「あんたはこれ以上の着物を生涯織れへん。この着物にはあんたの力の限りがこもっている」と言われたという。決意も織り込まれていたのだろう。海か宇宙を思わせる藍色の深さが、じわじわと心に届く作品だ。

 染めには、化学染料ではなく植物を使う。駆け出しの頃、植物を煮出した染液から引き上げた糸を見て、色の美しさだけではなく、自然が初めて手を差し伸べてくれた気がし、ぬくもりのある自然の心に触れたことが本当にうれしかったという。

 だから「こういう色に染めたい」との考えは順序が逆で「草木がすでに抱いている色のいのちをいただいている」という。こうした考えや感じ方は専門家だからではなく、本来人は当たり前に持ち合わせているのではないかと思う。

 東京都内で志村さんの活動を振り返る記念展が開かれており、足を運んだ。図録には「私が色をいただいている植物にとっては受難の時代の連続。展覧会の開催は喜びと共に、大きな責任を感じずにはいられない」と記されていた。失ってはならない色を心に焼き付けた。(衣)