日本地図を広げて「1番」を探し、山陰両県の山や川、湖と比べた子どもの頃。中国地方最高峰・大山(標高1729メートル)の上に、富士山(3776メートル)の他にも3千メートル級の山がいくつもあることを知り、少し残念だった。
季節を問わない大山での遭難のニュースに、よくそんなことを思い出す一年だった。高さだけなら登りやすそうだが、侮ることなかれ。冬場は海から寒風が吹き付ける独立峰。2人が犠牲になった3月の雪崩事故で「3千メートル級に匹敵する過酷さ」と何度も聞いた。
昨年は統計が残る1995年以降最多の28件(32人)の遭難があった。今年も11月末現在25件(27人)でそれに迫るペース。今夏、警察独自の山岳パトロールで未然防止につながったケースがあることを考えれば、実質は「過去最悪」ペースなのかもしれない。
大山遭難防止協会が訴えるのは(1)天気予報に基づく慎重な入山可否判断(2)雪崩ビーコンなどの「必須装備」携行(3)捜索初動にかかわる、万一に備えた「登山届」提出-の三つ。「自己責任」が及ぶ範囲だ。
3月の雪崩事故では救助隊も手が出せない天候不良が続き、最後の遺体発見まで約1カ月。指揮に当たった琴浦大山署の井上将地域課長が、今も真っ先に思うのは祈るしかなかった家族のこと。「ああいう思いをする人がおらんといい」。きのうも同署に救助要請の通報が飛び込んできた。防ぐことができる事故がある。(吉)