正月、録画したテレビ番組を見た。代名詞の背番号51と同じ51歳になった元大リーガーのイチローさんに密着した『情熱大陸』。同じ時期に活躍し、10年ぶりに再会した松井秀喜さんとのやりとりに見入った。
松井さんが「今のメジャーリーグを見ているとストレスたまりません?」と振ると、イチローさんは「たまる、たまる。退屈な野球」と呼応。データで選手の特徴や試合運びなどが可視化された野球への危機感を示し「目に見えるものしか評価しないのは危険。見えないものをもっと大切に」と訴えた。
高校野球の現場で指導を続けるイチローさんは自ら打ち、投げ、走って生徒に伝える。「データでがんじがらめにされて感性が消えていく」「周りの意見は変わるかもしれないけど自分自身の評価は変えるな」。その言葉が胸に刺さった。野球に限らない。時代が変わってもなくしてはいけないものがある。
例えば新聞記者。先輩から「匂いがする記事を書け」と言われた。現場に行き、見たこと、感じたこと、聞いたことを書く。交流サイト(SNS)が選挙結果に大きな影響を与えた昨年の兵庫県知事選を見て「オールドメディア」の責任を感じている。
データは過去の蓄積でしかない。未来をつくるにはどうしたらいいか。自ら考え、動くしかない。手間をかける時間を惜しむ時代だからこそ手間をかける。「原点回帰」。年の始めに誓った。(添)